今日は、
渚さん、23歳、女性、会社員の方からの投稿だガー
私は23歳の会社員です。
営業職に就いており、日々勉強中の新卒です。
会社はそれなりに規模の大きい所ではありますが、その分仕事の量もあり、毎日時間に追われながら目標達成のために一生懸命に働いています。
ようやく仕事が終わって、フラフラとバスに乗り込んだ日のことでした。
前から三番目の一人席に座り、右側の窓の格子に頭を置きながら、片耳イヤホンで音楽を聴き始めました。
スマホの画面を弄(いじ)りながら揺られていると、ふとバスの運転手さんが話し出しました。
その時はいつもの「ご利用いただきましてありがとうございます」や、「お忘れ物などないように」ではなく、特別なアナウンスでした。
「本日も○○交通をご利用いただきまして、誠にありがとうございます。今回、新型のウイルスということで、非常に多くの方が大変な目に遭われたことと思います」
運転手さんの口から出てきた話題は、全世界で問題となったこと。私はボーッと弄(いじ)っていたスマホから目を離しました。
運転手さんは話し続けます。
「私も僭越(せんえつ)ながら、バスをご利用になられるお客様が格段に減ってしまい、一番少ない時でも2,3人程でした。
ご利用していただけるだけで嬉しいですが、その反面、いつもの賑わっていたバスとは違い、がらんとしている車内を見ると、非常に寂しい気持ちで、いっぱいでした」
私は聴いていた音楽を止め、片耳に付いていたイヤホンを外しました。
「ですが少しずつ、本当に少しずつ街に人が戻り、私どものバスをご利用してくださるお客様も増えて参りました。
それは皆様がひとつになって、この状況を乗り越えていこうと一丸ととなって戦えているからであります」
前に座っている大学生らしき女の子が、スマホで動画を撮り始めました。
「私がどうと言える立場ではありませんが、一つだけ言わせていただきます。おかえりなさい」
運転手さんの声は、少しばかり震えていました。そっと後ろを振り向くと、乗っている数名のお客さんが顔を上げていました。皆どこかホッとしたような、あたたかそうな顔をしています。
「今日も一日、お疲れ様でございました」
その言葉があった後、運転手さんは「パスケースのタッチする所には触れずとも反応しますので、どうぞ触れぬよう」など、淡々とウイルス対策についてお話ししていました。
バスがゆっくりと停車する度、人が私の横を通ります。運転手さんにお辞儀をしたり、パスケースを浮かせてタッチする人がほとんどでした。
バス内で拍手は起こらずとも、その空間にいた者として、あらゆる年代の人が、気を払いながらバスを降りていきます。
降りる場所に着き、私はパスケースを浮かせながら運転手さんに「ありがとうございます」と言いました。運転手さんは「お気を付けて」と微笑んでいました。
少し冷たい風を感じながらぼんやり光る月を見て、何とも良い時間を過ごしたな、とほっこりしました。
そのときの運転手さんの名前は、今でも覚えています。
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